ナカノブひとりぼっち

(日常はあっけなくデストロイされちまった!)

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雷句誠の訴訟を訴状等から分析してみよう

『金色のガッシュ!!』で有名な雷句誠先生が小学館を相手取って訴訟を提起したことがネット上で話題となっている。雷句誠先生のHP上で訴状等が公開されているので、その内容を分析してみよう。

一、陳述書の内容について

おそらくこの陳述書は雷句先生が書いたものなのだろう。文章の最初のほうではですます調なのが、後半になるにつれて、である調になったりしていて怒りの度合いが伺える。

陳述書は、訴訟の請求原因などに直接関わらないことでもとにかく訴えに至るまでの経緯が読者に伝わるように書かれるためのものなので、『私はこれこれの理由で怒っているのです』ということがはっきりと読み手に伝わるこの陳述書は、なかなかよくできているといえるだろう(もっとも、小学館側から提示された50万円という償金の内訳に不信を抱いておられるようだが、そのへんのくだりは不用だったかもしれない。常識的に考えて『賠償金』というのが紛失した原稿そのものへの対価で、『補償金』というのが精神的な慰謝料の意味で、50万円とキリよくした、ということだろうし、訴訟にもあまり関係がない)。

後に述べるように、この訴訟の請求原因は債務不履行(原稿の取り扱いに関して締結された、漫画連載契約及び出版契約に付随する契約かと思われる(寄託契約としていたところをコメントにて指摘を受け、6月24日改める)契約に基づく善管注意義務違反という債務不履行)による損害の賠償請求および(原稿を紛失するという不法行為による精神的損害についての)慰謝料請求であるから、この陳述書で述べられた「いかに小学館が自分を今まで苦しめてきたか」という文章は特に慰謝料請求の部分で斟酌されることになる(原稿を紛失するという不法行為による精神的損害がこの訴訟で請求されている損害賠償の内容だが、それに至るまでの経緯も裁判官の心証としては斟酌されることだろう)。

(無償寄託契約の場合について検討していたが、商人たる小学館がその営業として行っていたものだと考えられる、とのコメントでの指摘を受け、善管注意義務が課されない無償寄託契約とされる可能性はないものと判断し、6月24日、当該部分を削除した)

二、請求の趣旨について

請求の趣旨というのは、裁判所にどのような判決を求めるか、という部分だ。
今回の訴訟では以下のようになっている。

 1 被告は、原告に対し、金300万円及びこれに対する訴状送達日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 被告は、原告に対し、別紙絵画目録記載の絵画のポジフィルムを引き渡せ。
 3 訴訟費用は被告らの負担とする。
 4 第1項につき仮執行宣言

請求の趣旨について目を引くところは、1の300万円の請求と、2のポジフィルムの引渡しだろうか。
順に検討しよう。

①まず、請求の趣旨1から。

請求の趣旨1の300万円の内訳は、原稿の取り扱いに関して締結された、漫画連載契約及び出版契約に付随する契約(寄託契約としていたところをコメントにて指摘を受け、6月24日改める)に基づく善管注意義務違反による損害150万円の賠償請求と精神的損害150万円の慰謝料請求である。

まず、原稿紛失それ自体の損害の検討について。一応、訴状においては『原稿についての寄託契約』(単に寄託契約としていたところをコメントにて指摘を受け、6月24日改める)違反ということになっている。漫画の原稿については作家の持ち物であって、出版社はそれを預かっているだけということになっているらしい。もしかすると、出版社の側は、預かったのではなく原稿については買い取ったものだということを主張するかもしれないが、慣例として原稿を返却することになっていたようだから、出版社の側が返還義務を否定したとしても、認められがたいだろう。また、今回の寄託契約が善管注意義務違反を導くものであったかどうかという問題は被告側の答弁などを通して明らかになってくることだろうから、ひとまずさておこう。

おそらく、重要な争点となるのは、原稿紛失の損害が150万円を下らないものであるかどうか、ということだ。5枚のカラー原稿はそれぞれ30万円の価値を持つものであるか、ということだ。マニアである私からすれば、作者直筆、実際の本にも使われた原稿が一枚30万円というのは、当然そのくらいするだろうなあという気がするのだが、小学館側の弁論を経た上で、裁判所がそれを認めるかどうかは別問題だ。一枚30万円の絵画というと、そうありふれたものではない。生原稿の市場というものがどのように形成されていて、どのように価格が判定されているものなのかなどを含めて、原告としては困難な主張立証課題が課されることになるだろう(訴状によると、ヤフオクでの実績などから判断しているようだが、どんなもんだろう)。しかし、原告側の代理人のがんばりによってはもうちょっと高い金額設定もできた気がするのだが、どうだろう。もっと事前に宣伝をしておいたうえでのオークションとか、なんらかの実績をあらかじめ作っておけば、あるいは…。

次に、精神的損害への慰謝料について。

150万円という額が適切なものかどうかが争われることになるだろう。精神的損害というものには算定基準などもなく、その額の内容は裁判官の心証で決まってしまうので、これは訴訟が起こされてみないと結果がわからない。しかし、150万円ぐらいならそう高いハードルではないかもしれない。著作物というものは財産的価値とともに著作者の人格的な価値をも有するものであることから鑑みれば、命を削って書き上げた原稿を紛失したことによって大きな精神的ショックを受けるという主張がなされたとしても不合理ではない。

以下、私の意見としては:
全体に見て、この300万円という請求は随分安いように感じた。代理人が弱気だったのか、それとも『請求が満額、認められました!』といった形で精神的な部分での勝利を求めているのか、それとも雷句先生が忙しいのであんまり金額の内容には興味を持っていなかったのかなんなのか。

私の考えでは、おそらく小学館に勝つこと自体が雷句先生の目標になっているのではないだろうか。小学館に勝つことで小学館との決別をはっきりとしたものにしたかったのではないだろうか。そして新しい場所での仕事を確実なものにしたかったのだろう。

だとすると、小学館との和解が成立する可能性は、残念ながら、そう高いものではなさそうだ。しかし、小学館は、300万円ちょっとぐらいのコストなら、この訴訟によって引き起こされる自社への信頼の低下という損失と比較してもそう大きくないと判断して、すぐに訴訟を終わらせようとするのではないだろうか、どうだろう。

また、前述のように、著作物である原稿の紛失が人格権上の問題ももたらすことからすれば、また、陳述書にあるように小学館の編集者から色々と腹ただしい扱いを受けてきたというのであれば、謝罪広告等を出すように請求したりしないかなあ、などと思ったが、そのような請求はしていないようだ。

②次に、請求の趣旨2について。
ポジフィルムの引渡し…これが行われるとどうなるのか?
訴状の記載によれば『ポジフィルムがなければ、同一のマンガを出版することができないことは言うまでもない。』…ああ。出版が不可能になるのか…。これが容れられるかどうかも問題になりそうだ。

三、出版社に与える影響について

出版社は、他の業種と比べると…いや、比べ物にならないくらい、契約関係は非常にルーズに処理されている。たとえば自動車メーカーなどのの知的財産処理の現場とは比べ物にならないくらい著作権処理がルーズなように思える。出版社に熟成された伝統というか慣例なのかもしれないが、それによる弊害というのはかなり大きいのではないだろうか。

そういえば、福満しげゆきの『僕の小規模な生活』の中でも、モーニングとの間の連載が決定したのかしていないのかはっきりしなかったがために、福満しげゆきが困る、みたいな話があった。もしも連載の決定という重要な決定に際しては書面を取り交わすなどして、契約関係を厳密なものにしておけばこういった行き違いというのは無くなるはずだ。それについてそう多くのコストがかかるわけでもないだろうし、すぐできることだろう。そして、これは出版社全般についていえることだが、事業規模及び社会に対する影響に対しての法務処理に割かれるべきコストがあまりにも低くおさえられているように感じられる。ただでさえ、著作者と出版社がもめることは少なくないのだから。『マスターキートン』の事件とかもそうだったなあ。

四、漫画家に対する影響について

このケースが後々の漫画家にどのような影響を与えるか?この訴訟によって、一つの前例が作られることになるのは間違いない。しかし、その前例の射程となると、かなり限られたものになりそうだ。

雷句誠先生は小学館漫画賞を受賞され、アニメもグッズもヒットしていた。つまり、サンデーに連載を持っていた漫画家のなかでも、ずいぶん成功した漫画家なのだ。雷句先生は訴訟の意義として「弱い立場にある漫画家の権利のために」ということを強調されるが、ごく普通の新人漫画家の待遇がこの訴訟によってどれだけ改善されることになるかどうかは、未知数だ。

だが、少なくとも、いくつかの事実上の影響を与えることにはなるだろう。原稿管理体制はより丁寧なものになるだろうし、法務体制ももう少し綿密なものになるだろう。新人の原稿料ももう少しあがるかもしれない。

五、一読者としておそれていることについて
『金色のガッシュ!!』が絶版になること。作者や出版社とのごたごたで作品が市場に出なくなるのは悲しいし、著作者としては印税収入を得る機会を、出版社としても営利の機会を喪失する現象であるから、誰も得をしない結果になってしまう。そして読者も作品に触れる機会が少なくなるわけで、特に「ガッシュを読み返そうかなあ」などと思ったときに注文しても手に入らない、というのは悲しすぎる。

追記:
訴状には代理人の名前は書いてあるので、誰が代理人となっているかを知ることができる。豊島法律事務所の小野智彦…どこかで聞いたことがある気がするが、どこで見たかは思い出せない。何か別の事件で見たような…

それはともかく、豊島法律事務所の小野智彦弁護士ってどんな人だろう、と思って調べてみていたらこんなページがあって、小野弁護士が以下のような発言をされていた。


小野 クライアントに心を開いて頂けるように私は聞き役に徹して、じっくりとお話に耳を傾けることです。その中で解決の糸口を見つけていくのです。そして、なるべく訴訟にまで発展させず、和解へと導くようにしています。問題が起こった当初は、クライアントの感情は高ぶっていますからまずはそれを落ち着かせることが肝心ですね。弁護士の仕事は、物事の白黒をつけることではなく、紛争を収めることだと思うので、互いが納得して和解できれば、それが理想の形ですね。


どうも、小野弁護士は和解に積極的な方針を採っているようだ。これが訴訟にどのような影響を与えるかはわからないが。
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コメント

はじめまして
blog読ませてもらいました(^^
もし よければ私のblogもペタしてくださいね♪

  • 2008/06/09(月) 10:49:53 |
  • URL |
  • あち #-
  • [ 編集]

してますよ

>もっと事前に宣伝をしておいたうえでのオークションとか、なんらかの実績をあらかじめ作っておけば、あるいは…。

訴状にちゃんと書いてあります。
> ② オークションでの落札価格について
>      マンガの美術的価値としての損害の填補としては、前例がないことから、今回、紛失した原稿と同様のカラー原稿を、ヤフーオークションで売りに出すことで、自らの原稿の客観的な価値を探った。
>      2作品をオークションにかけてみたところ、1つは35万4000円で落札(甲10)、もう一つは16万4000円で落札された(甲11)。
>    ③ 原告の描いた原画の美術的価値の算定
>      上記オークションでの売買価格の平均値が25万9000円であること、紛失された原稿は実際に雑誌本文で使用されたものでありプレミアがついていること、オークションの開催自体が読者に余り知られていない中で行われたこと等を考え合わせ、一応原稿1枚につき、30万円と算定した。


  • 2008/06/10(火) 00:48:09 |
  • URL |
  • 通公認 #JalddpaA
  • [ 編集]

>通公認さんへ
どうも紛らわしい書き方をしてしまったようですみませんが、私が比重を置きたかったのは『もっと事前に宣伝をしておいたうえでの』というところです。

>オークションの開催自体が読者に余り知られていない中で行われたこと等を考え合わせ…

と訴状にもあるように、今回の訴訟において賠償金額は十分な宣伝もないままなされたオークションによって1枚辺り30万円と算定されたのですが、もしも宣伝が事前に十分になされていたら、落札価格も上がり、もっと高額な算定基準ができたのでは?と思ったため、そのように書いたのです。

おそらく、雷句誠側が事前に宣伝を十分に行わなかったのは、訴訟を提起するということを小学館等に悟られたくなかったからかもしれませんね。

  • 2008/06/10(火) 18:24:34 |
  • URL |
  • 超伝導ET  #-
  • [ 編集]

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

  • 2008/06/12(木) 09:48:11 |
  • |
  • #
  • [ 編集]

↑の方へ

これは非常に失礼な間違いをしておりました…
早速訂正いたします。
ご指摘ありがとうございました。

  • 2008/06/12(木) 20:44:46 |
  • URL |
  • 超伝導ET #-
  • [ 編集]

長文失礼いたします

はじめまして。

僕も自分のところの日記で今回の訴状について法律的に考える機会がありましたので、このエントリーに思うところがあり、書き込ませていただきました(URLリンク先参照)。

ただ、いったん書き込んだものの、誤りや理解の不十分さを感じ、このコメント欄の仕様に甘えて、何度も書き直させていただいております。公共の空間上に存在した文章が何度も変わってしまっているわけで、ブログを汚してしまっていることに深くお詫びを申し上げたいと。


そこで本題に。


>寄託契約に基づく善管注意義務違反による損害

本件で弁護士さんがストレートに寄託契約から善管注意義務を導いているのか、必ずしもそうではなく、出版契約等の延長として「寄託」を考え、その出版契約等全体から善管注意義務を導いているのか、訴状からはわかりにくい部分があるように思うのですね。

確かに、訴状では明確に「原稿についての寄託契約」として原稿保管の法的根拠としていますが、僕には、出版契約等が終了して、「典型契約としての寄託契約」を新たに締結したというより、出版契約等の延長として「保管」の意思表示の合致があったと見るべきなのではないかと思えるのです。預かった原稿の利用について、「巻頭ページや広告媒体などへの再使用」という風に、「従前の約束の延長と見られる同意がなされていることが、そう見た方が実態に即している根拠のひとつになるでしょうか。実際、当該内容を書いた箇所の表題は「原稿連載契約及び出版契約の締結」ですし。

また、仮に、出版契約等と寄託契約とを時期で明確に分けたとしても、問題となる原稿がいつ紛失したかわからないとすれば、寄託契約に基づく善管注意義務違反ではなく、出版契約に基づく善管注意義務違反を問題にしなければならない可能性もあります。

つまり、何が言いたいかというと、訴訟物を端的に「寄託契約への債務不履行」と言い切っていいのか、疑問があるのではないかということです。

少なくとも、「置いておく場所がないから保管してもらう」という、典型的な寄託のイメージとはだいぶ違うだろうと。もし、小学館が「これは無償寄託である」と主張するならば、そもそも不自然なことに思えます。

その点がどうにも疑問で、長文のコメントを書かせていただきました。


>雷句誠先生の側としては有償寄託契約であることを主張立証したいところ

小学館は「商人」であり、原稿の保管はその「営業の範囲内」で行われるものだといえますから、たとえ純粋に寄託契約の債務不履行で考えるのであっても、報酬の有無を問わず善管注意義務が小学館に発生するのではないかと思いますが、どうでしょうか?(商法593条)


一応、以上です。
相当枝葉末節なことにもかかわらず、個人的な問題意識のため長文のコメントで場を乱してしまい、申し訳ありませんでした。

>>ボクシングファンさんへ

ご指摘ありがとうございます。ご指摘の点は、けして枝葉末節なことではありません。大事な部分です。

そして、確実に、あなたの意見の方が正しいと思います。明らかに間違っていたのは私であって、ボクシングファンさんのおかげで記事を訂正することができたのです。

実は、この記事を書いた当初(雷句先生のブログを見てすぐに書きました)、私は漫画の原稿というのは本が出版されれば用済みになるもので、原稿が編集者の手元に置かれていたというのはただ単に『預けていた』とかではなく、編集者が『作家に返さずに放置していた』ぐらいのものだと思っていたのです(何故そのように思い込んでいたかというと『70年代までは原稿の価値などは認められておらず、雑誌が出版された後で廃棄されていた』という文章を読んだことが頭に引っかかっていたためです)。このように捉えてしまったのは、私の重度の不注意だったと思います。記事の三と四と五のことに重点を置きすぎていて、深く考えずに書いてしまっていました。

しかし、この記事を書いた後に明らかにされてきた色々な出版における契約の状況などに照らし合わせると…あるいはごく普通に、常識的に考えれば…原稿に関しては、会社として責任を持って管理すべきものだった、と考えるべきでしょうね。

だから、小学館の業務の一環として行われる原稿管理には間違いなく善管注意義務が課されるものと思われます。ボクシングファンさんのご説明が説得的だと思います。

また、訴訟物に関しては…私はあまり深く考えずに『寄託』としてしまったのですが、ボクシングファンさんのおっしゃるとおり、通常の寄託契約とするのは不適切でしょうね。原稿連載契約の一環とみるべきなのでしょうか。

以上のようなことに関しては、直ちに改善します。

ご指摘ありがとうございました。
よろしければ、他にも何か不適切なところなどがあったら教えてください。たぶん、間違いはたくさんあると思いますので…。

  • 2008/06/24(火) 18:56:09 |
  • URL |
  • 超伝導ET #-
  • [ 編集]

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