ナカノブひとりぼっち

(日常はあっけなくデストロイされちまった!)

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サン・ジョルディの日記念:稀覯本奇聞、大木惇夫編

今日、4月23日はサン・ジョルディの日なのだ。
この日がどんな日記念日なのかを知っている人は数少ない。
サン・ジョルディの日がどういう日かっていうと…本を贈る日なのだ。
バレンタインデーの本版みたいなもんだね。

この出版関係者しか知らなさそうな日と関連して、今日は『稀覯本』について述べようと思う。

さて、稀覯本という言葉がそもそも分からない人がいるかもしれないから解説すると、稀覯本とは手に入りにくい本のことである。初版本やすぐに絶版になった本のたぐいが主だろうか。ちなみに、稀覯本を収集する趣味を持つ人が、ビブリオマニア(bibliomania)。蔵書狂などと訳される。

私もビブリオマニアの一人として稀覯本のひとつやふたつ、もっていないことが無くもない。自慢。で、私が持っている稀覯本で最も価値が高いものとは…大木惇夫『海原にありて歌へる』だ。今amazonで買うと20万円ぐらいするらしいぞ。本当だろうか…大体古本屋の相場は一万円ぐらいか。物にもよるだろうが。

この本がどんな本かというと…詩集だ。詩集でベストセラーになったものは数少ないが、これは珍しい詩集のベストセラーの一つだ。…戦中の。戦中はそもそも本をそれほどの数出版しなかったので(紙が統制されていた)、本が売れにくい状況ではあったのだが、そんな中ベストセラーになったということでこの本がいかにその時代にマッチした本だったかということを察してほしいところだ。

その内容とは。詩集なのでもちろん詩が詰まっているわけだが、最も有名な詩といえばこの中の「戦友別盃の歌」だろう。

こういう詩だ。
『言ふなかれ、君よ、わかれを、
 世の常を、また生き死にを、
 海ばらのはるけき果てに
 今や、はた何をか言はん…』

全体で16行からなる詩なので、そう長いものではない。全部引用しても良かったのだが、著作権に配慮して全文引用はやめておいた。もっとも、作者は随分前に亡くなっているので、もはや引用したところで著作権を主張されるとも思えないが(今googleで検索したらあっというまに全文が出てきた。若干のむなしさを感じつつ…)。

ベストセラーだったこともあり、特定の年代の人には非常にメジャーな詩だ。例えば、1962年に直木賞を受賞した山口瞳の『江分利満氏の優雅な生活』ではこの全文が引用されている。また、先代の産経抄の担当者、石井英夫氏もそのコラムの中でたびたびこの詩を引用されていた。つまり、そういう年代には非常に思い出深い詩だといえるだろう。

ここで、この文章を読まれた方は疑問を抱かれたことと思う。では、なぜ現代においてそのような詩、あるいは作者の名はあまりにも無名であり、かつ本も出版されていないのか。

その答えは、残念ながらひとことで言えば「イデオロギー」だ。戦中の詩が戦争を賛美するものであったとして戦後の詩壇、文壇から大木惇夫は追われてしまったのだった。彼の晩年は不遇のものだった。貧しい暮らしを強いられたことと聞いている。

彼は「この市やわれを追ひけり…」という詩も作っている。ちなみにこの“市(まち)”とは広島のことだ。彼は広島の出身だった。この詩はこう続く。

『この市やわれを追ひけり
 このかみにわれを追ひけど
 二つなきこれやふるさと…』(流離抄)『冬刻詩集』

彼の悲哀のいかなるものか。

…さて。長らく不遇だった大木惇夫の作品。最近はまた日が当てられている。大木惇夫全集を再版した出版社もある。それを社会の右傾化と見る向きもあるかもしれないが、むしろここは社会が左翼小児病から解放されて文学をプロパガンダとしてではなく作品として受け入れられるようになってきたと考えたいところなのだ。これをノンポリの戯言と受け止めるのも人の勝手ではあるのだが。

出版業全体が今、地盤沈下のような状況にある中で、イデオロギーにとらわれず、かつて失われていた作品にも業界の活路を見出して欲しいところだ。いちビブリオマニアとして、そう思う。

あとサン・ジョルディの日についてもうちょっと広告してもいいんじゃないかな、とも思う。
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コメント

いい詩だと思うんだ。

でもあまりにも知られてないよねえ。

寺山修司とか、詩は現代人は必要としていないのか。

  • 2007/04/23(月) 21:25:50 |
  • URL |
  • 超伝導ET #-
  • [ 編集]

へえ。詩か。
ポエムとか揶揄されるようなものとは一線を画した凛とした響きがあっていいじゃないの。

  • 2007/04/29(日) 00:00:04 |
  • URL |
  • ファンの一人 #-
  • [ 編集]

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